宅建業者の「自ら売主制限」

2020/06/02 その他
宅建業者の「自ら売主制限」

宅建業者(不動産業者)が売主となって一般消費者を相手に不動産を売買する場合、
宅建業者には宅建業法による8種類の制限が設けられています。

この制限は一般的に「自ら売主制限」あるいは「8種制限」とよばれるもので、一般消費者を保護するためにあり、業者間の取引では適用されません。

制限の内容は以下の通りです。

1.自己所有に属しない不動産の売買契約締結の制限

「自己所有に属しない不動産」とは、他人物や未完成物件のことです。
宅建業者は自ら売主となって自己所有に属しない不動産の売買契約を締結してはならないという規定です。
ただし、取得契約や売買予約によって当該不動産を取得することが明らかな場合や、手付金等の保全措置を講じた未完成物件の売買については認められています。

2.クーリングオフ制度の適用

宅建業者が自ら売主となり、宅建業者の事務所等の場所以外で締結した売買契約は、買主がクーリングオフについて書面を交付した説明を受けてから起算して8日以内であれば無条件で契約を解除することができます。

宅建業者の事務所等の場所とは、宅建業者の事務所や支店、契約や申し込みのできる住宅展示場・モデルルーム等、買主が自ら申し出た場合の自宅や勤務先、などです。

クーリングオフ制度についてはこちらの記事で詳しくまとめています。
記事:「不動産取引におけるクーリングオフ」

3.損害賠償額の予定等の制限

宅建業者自ら売主となる不動産の売買契約では、契約の解除に伴う損害賠償の予定額と違約金の合計が売買代金の10分の2を超えてはならないという制限があります。

これは一般消費者が不当に高額な損害賠償額や違約金によって損害を被ることのないようにするためです。

4.手付額の制限

売主である宅建業者は売買代金の10分の2を超える額の手付金を受領することができない、という制限です。
不動産の売買においては契約時に買主が売主に対して手付金を支払うことが一般的ですが、宅建業者である売主が受領した手付金は常に「解約手付」として扱われます。
したがって、買主はこの手付金を放棄することで契約を解除することができます。

5.担保責任についての特約の制限

買主に不利となる特約を無効とする規定です。
ただし、担保責任の期間を引渡しの日から2年以上とする特約は有効となります。

6.手付金等の保全

保全措置を講じない手付金等の受領を禁止する規定です。

手付金等とは、名目を問わず、売買契約締結時から不動産の引き渡し前までに支払う金銭で、代金に充てられるものをいいます。

もし取引が完了する前に売主である宅建業者が物件を引き渡せない等の事態が生じた場合に、手付金等が確実に買主に返還されるよう保全処置を講じることを規定しています。

7.割賦販売契約の解除等の制限

割賦販売とは、代金の支払いを2ヶ月以上にわたり3回以上に分割して行う販売方式です。

不動産の割賦販売契約の場合、賦払金(分割した金額)の支払が履行されない場合など、売主である宅建業者が契約の解除等を求めるには、30日以上の期間を定めて書面で催告する必要があります。

8.所有権留保等の禁止

所有権留保とは、売主が売買代金を確保するため、代金が完済されるまで引渡しの終えた目的物の所有権を留保することをいいます。

宅建業法では、買主が代金の10分の3を超える支払いをしたうえで、残代金の債権を担保する抵当権等の登記申請などを行う場合は、売主は所有権の移転を留保することはできないと定めています。

 

 

執筆者

萩原岳 プロフィール

東京外国語大学中国語学科卒業
株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役
http://apre-kanntei.com/
不動産鑑定士 MRICS(英国不動産鑑定士)

 在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。

 相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産事業者など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。

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