相続法(民法)の改正⑤ 「配偶者居住権」

2020/07/17 その他
相続法(民法)の改正⑤ 「配偶者居住権」

民法の改正により、約40年ぶりに相続に関するルールが大きく変わりました。
今回は改正事項の中で新たに設けられた、「配偶者居住権」について確認していきます。

配偶者居住権とは

配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に住んでいた場合に、終身または一定期間、その建物に無償で住み続けることができる権利です。

日本では自宅の価値が遺産の大半を占めていることが多く、相続人が複数いる場合には残された配偶者が遺産分割によって自宅を失ってしまうこともあります。
そこで、配偶者の居住権を長期的に保護するための権利として創設されたのが、「配偶者居住権」です。

自宅についての権利を「住む権利(配偶者居住権)」と「負担付きの所有権」に分けることで、相続により配偶者が「住む権利(配偶者居住権)」を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得することを認める仕組みです
これにより、配偶者は自宅所有権を相続していなくても、無償で自宅に住み続けることが可能です。

配偶者居住権は通常の所有権とは異なるため、その権利を売却することや、誰かに相続させることはできません。そのため、所有権よりも財産評価額が低くなります。
評価額を低く抑えることで、居住権以外に預貯金などの金融資産も取得することができれば、配偶者の相続後の生活費も確保できることができます。

配偶者居住権がその配偶者の死亡によって消滅すると、その他の権利を所有していた人が、その不動産の権利をすべて所有し、通常の所有権の扱いになります。

 

配偶者居住権の設定

配偶者居住権は、遺言や遺産分割により取得できます。

相続が発生した時点で、その自宅に住んでいた配偶者にだけ認めらる権利で、被相続人が所有していた建物が対象です。

また、不動産の登記をしなければ効力を発揮しません。

 

配偶者「短期」居住権

配偶者居住権と同時に「配偶者短期居住権」も新設されました。

配偶者居住権は配偶者の居住権を長期的に保護するための方策で、遺言や遺産分割により取得できますが、「配偶者短期居住権」は短期的な居住権を保護するものです。
(最低6か月間は保障)

この権利は被相続人の意思にかかわらず、相続発生時に被相続人が所有していた建物に無償で居住していることで成立します。

配偶者「短期」居住権の存続期間

遺産分割によって居住建物の取得者が確定した日、もしくは、相続発生から6か月を経過する日のどちらか到達の遅い日までその建物に住むことができます。

また、遺贈などにより第三者が居住建物の所有権を取得した場合や、配偶者が相続放棄をした場合は、建物の取得者が「配偶者短期居住権の消滅請求」をし、その請求を受けてから6ヶ月を経過する日までの間は居住権が保護されます。

●配偶者短期居住権を第三者に譲渡することや、権利を登記することはできません。

 

配偶者居住権の評価について

配偶者居住権の評価については公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会により令和元年12月付で「配偶者居住権等の鑑定評価に関する研究報告」が発表されています。
配偶者居住権等の鑑定評価に関する研究報告
鑑定評価基準よりも2段階下の研究報告レベルなのは、できたばかりの制度であるため実務の蓄積が待たれるからです。

 

※執筆時点で有効

執筆者

萩原岳 プロフィール

東京外国語大学中国語学科卒業
株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役
http://apre-kanntei.com/
不動産鑑定士 MRICS(英国不動産鑑定士)

 在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。

 相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産事業者など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。

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