マンション敷地事件(東京地裁平成25年12月13日判決)Ⅱ判旨③

2018/08/30 判例・裁決事例
マンション敷地事件(東京地裁平成25年12月13日判決)Ⅱ判旨③

3. 本件不動産について評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情があるか

本件において、原告は、本件鑑定評価額が本件贈与時における本件不動産の時価であり、評価通達に定められた評価方式によっては本件不動産の価額として算定された金額は本件贈与時における本件不動産の時価を上回っていると主張しており、本件不動産について評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情がある旨を主張しているものと解されるので、これについて検討します。

(1) 本件鑑定評価額が本件贈与時における本件不動産の時価を表すものであるか

ア. 本件鑑定評価額
(ア)  本件鑑定評価においては、原告のマンションの平成19年7月1日時点の鑑定評価額は、2300万円とされています。
(イ)  本件鑑定評価額は、本件不動産の積算価格を参考にとどめて決定された金額であるところ、これは、積算価格には「現在の容積率制限からみて、最有効使用されていないため通常のマンションと比して専有面積当たりの持分が大きいことがそのまま反映されていること、さらに、積算価格に占める土地価格を顕在化するためには、建て替え決議を行い、費用と時間をかけて建て替えを行う必要があり、現状においては実現性に不透明な部分がある」とされたことによるものです。

イ. 本件贈与時における本件マンションの建替えの蓋然性
前記アの通り、本件鑑定評価額は本件マンションの建替えの実現に不透明な部分があるなどとしてその積算価格を参考程度にとどめて算定されたものであるところ、原告は、本件贈与時においては本件マンションの建替えが実現する蓋然性は高くなかったとして、本件鑑定評価の方法が適切なものであったと主張するので、これについて検討します。

本件マンションについては、①昭和32年に建築された後に老朽化及び陳腐化が進んだことを前提に、平成8年から建替えの検討がされ、平成15年に実施されたアンケートにおいても、区分所有者の8割近くの者が建替えを希望する意向を示していたものであるところ、②平成17年に入って改めてB建設を相手方とする等価交換方式による建替えの検討が開始された後は、各区分所有者との間で建替えの実施や新建物における住戸の選定等についての意向の調査が数次にわたり個別に進められ、新建物の建築の計画についての関係行政庁との協議も進められたものであって、③平成平成19年4月22日に開かれた臨時総会においてされた本件基本計画案を承認する決議については区分所有者104名中出席と取り扱われる97名の全員が、同年10月28日に開かれた建替え決議集会においてされた本件一括建替え決議については区分所有者105名中出席と取り扱われる104名の全員が、それぞれ賛成していたものであり、④このような検討の進捗の状況や区分所有者の建替えの実現に向けての意向等を背景に、B建設は、同年4月22日、本件マンションの現在の資産の評価を示すものとして「本件マンション建替計画新築マンション住戸別ポイント表」を区分所有者に示し、同年6月30日には、ポイントが上記のような性格のものであることを改めて示した上で、その単価として4万5000円ないし4万7000円であることを明らかにするとともに、当該単価をもって、補償金との現金をもってする清算、等価交換契約における充当等のあり方、将来の税金の試算等をも示しており、上記のような本件マンションの資産の評価に係る認識はその後も一貫して区分所有者との間で維持されていたほか、並行して進められていた本件売却希望者との交渉における基礎ともされていたものです。

以上より、本件贈与時において本件マンションの建替えの実現性に不透明な部分があるとして、積算価格を参考程度にとどめて本件不動産の価額を算定した本件鑑定評価は、その前提に問題があったというべきであり、本件鑑定評価額をもって本件贈与時における本件不動産の時価を表すものであると直ちに認めることには疑問があるというべきです。

 

(2) 評価通達に定められた評価方式による本件不動産の評価額が本件贈与時における本件不動産の時価を上回っているといえるか

ア.  前記の本件ポイント表では、現在の資産の評価として、5号棟の本件不動産は2000ポイントと評価され、平成19年6月30日付の「本件マンション建替え計画第7回勉強会資料」とも併せると、ポイントについては、B建設との間での金銭による清算の基礎ともされ、関係する税の額を試算する基礎ともされているところ、原告に係る上記ポイントの数に前記1ポイント当たりの金額の概算値のうちの最小値である4万5000円を乗じると、本件不動産の価額は9000万円と算定されることになります。

イ.  ところで、評価通達に定められた評価方式によると、本件不動産の価額は7206万2340円と算定されるところ、前記に認定判断した各事情によれば、本件贈与時頃においては、既に述べたような本件マンションンの建替えが実現する蓋然性が相当程度に高まっていたというべき当時の状況の下で、評価通達に定められた評価方式による本件不動産の評価額が本件贈与時における不動産の時価を上回っていると直ちに認めることはできないというべきです。

 

(3) 小括
以上によれば、本件鑑定評価額が本件贈与時における本件不動産の時価であると認めることには疑問があり、評価通達による評価額が本件贈与時における本件不動産の時価を上回っているとは認められないから、本件不動産について評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情があるということはできません。

 

執筆者

萩原岳 プロフィール

東京外国語大学中国語学科卒業
株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役
http://apre-kanntei.com/
不動産鑑定士 MRICS(英国不動産鑑定士)

 在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。

 相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産事業者など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。

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